調査報告:台湾国家婦女館 Taiwan Women’s Center(台湾)
調査実施日時
2025年3月21日
調査先情報
名称:台湾国家婦女館 Taiwan Women’s Center
住所:台北市中正区杭州南路一段15号9F
ホームページ:https://www.taiwanwomencenter.org.tw/
調査参加者
大石尚子(龍谷大学)、井上良子(龍谷大学RA)
概要
政府の主導により、国際女性デーに合わせて2008年3月8日に開館した台湾国家婦女館(Taiwan Women’s Center)は、「ジェンダー主流化」を積極的に推進。
官民のネットワーク拠点であり、また台湾における女性の貢献と男女共同参画を紹介する展示センターでもあります。
移民女性のための起業支援プログラム
センターが運営する女性権利基金会は、移民の女性たちが台湾に定着できるよう支援するため、2017年末に「新移民女性起業促進プログラム」を立ち上げ、起業による雇用促進、起業や事業規模の拡大、経済的安定と自立意識の強化、労働能力の向上、経済的自立の達成、生活水準の向上、経済資源の蓄積、家庭経済の安定を目的に、女性たちの夢の実現を支援しています。
台湾の経済状況がよかった約20年前に結婚のマッチングブームもあり、結婚を機に中国や東南アジアから移住してきた女性たちを「新住民」と呼ぶそうで、主にそういった経緯で移住してきた移民女性たちが対象になっているとのこと。
プログラムを運営する過程で、移民に限らず多くの恵まれない女性が同様に緊急の起業ニーズを抱えていることに気づいたため、2020年に台湾の女性も含め、「新・女性起業加速プログラム」と改名し、より多様な女性起業プラットフォームを構築し、それによって台湾の女性の経済力を全体的に高めることを目指していると伺いました。

起業プログラムの主な参加者層は、35歳〜55歳ぐらいの年齢層で、最近の傾向としては若い参加者が多いそうです。年代が上の層は、DVや父親からの支援不足、シングルマザーといった事情が多いとのことですが、若い世代は自分の夢を叶えたいなどの自己実現がメインだということでした。共通しているのは新住民に対する家族間や地域での差別意識や不遇の状況と、台湾全体では、伝統を重んじる地域や家族を中心に、特定の国(東南アジア)に対する差別意識などが存在していることが背景にある点です。
8年間で144名の起業家を輩出しており、そのうち社会課題に関する起業家は2〜3割で地域の産業振興をテーマにした起業が多いとのことでした。移民女性の経済的自立という当初の目的を8割方達成したため、本プログラムは昨年(2024年)で終了したそうですが、144名の起業家たちが支援者側に回り、企業家のコミュニティが形成されたことで起業支援とは別の形でサポートすることも検討していると伺いました。
Walking Tour ”Her Way「女路」”
伝統的な家父長制文化の影響により、台湾では、歴史的な記録は男性の視点で重要な出来事のみを強調してきた中で、女性の視点を通して台湾の歴史や文化、社会を再解釈する必要性から、女性(有名人ではなく各地域の歴史等に関係する一般女性)の生き方、ストーリーに特化したツアーを造成。ガイド付きツアーを通して、従来の視点や固定観念を覆し、性別、民族、文化等の間のギャップを減らすことで、あらゆる分野の様々なグループの可視性と主体性を高めることを目的としています。
プロジェクト(ツアー企画)は、台北市の大稲埕(だいとうてい)エリア*から始まり、現在は22のうち15の都市まで拡大しているとのこと。*清代末期から日本時代にかけて水運により繁栄した貿易の街。清代に淡水河の沿岸に広がっていた稲を干す広場「埕」に由来する地名。台北市で最も古い市街地の一つ。

センターにはジェンダーに関する情報や知見はあっても、各地域に関する歴史等の情報には精通していないため、公民館や歴史的な施設等と連携してリサーチを進めたそうです。各地域にアーカイブされている女性の生活状況調査や少数民族に関するデータをもとに県の歴史資料等も掘り起こしながら、スポットと物語を発掘するプロセスがとられています。
現状ではWebサイトでツアー参加者を募集し、学校や教育関係者からの申し込みが多いとのこと。また、ジェンダーに関する国際フォーラム開催時などに参加者向けにツアーの案内もしているそうですが、書籍も販売されるようになり、さらなる参加者の広がりに期待していると伺いました。
センター訪問後、実際に大稲埕エリアのいくつかのスポットを巡ってみると、観光とは異なる視点から街を知ることができ、地元の人にとっても新たな地域資源の発見につながる可能性を感じました。また、コース開発のプロセスで大学の専門家や学生が関わるなど、大学との連携可能性の余地も検討していけるとよいのではないかと想像が刺激された面白い企画でした。