調査報告:黒潮留学
調査実施日時
2025年2月17日(月)13:00〜16:30
調査先情報
名称:黒潮留学
住所:
ホームページ:https://www.facebook.com/kuroshioyakushima/
調査参加者
服部圭郎(龍谷大学)、石原凌河(龍谷大学)
概要
・概要
屋久島町は鹿児島県の大隅諸島、屋久島と口永良部島から成る。人口は1万1千人。世界遺産に登録されている自然遺産もあり、その観光資源は優れているが、1970年には17万376人あった人口はこの50年間、減少傾向にある。屋久島には高校は2つ、中学校は8つ、小学校は8つある。しかし、人口減少により生徒は減り、小学校から活気が失われつつあった。そのような状況を変えたいと考えたのが、元黒潮留学実行委員会事務局長の兵頭昌明氏である。彼は、「屋久島を守る会」の代表として、1960年代から島の自然保護に携わり、国による大規模森林伐採、国家石油備蓄基地計画、縄文杉ルートのロープウェイ構想の中止など、島民が中心となり、政治家や学者を巻き込んだ環境保護運動を繰り広げてきた。母校の一湊中学校が2013年に閉校。一湊小学校も複式学級になりそうな事態に、兵頭氏は山村留学制度を導入することを具体化する。
そこで、地域の人々や学校と協力して、屋久島町が取りまとめていた「山海留学制度」に手を挙げた。一湊小学校区の「黒潮留学」では、子どもだけを預かる「里親留学」ではなく、親子で島に暮らす「家族留学」制度のみを採用した。親子は、最長2年間、月額3万円の補助を受け取りながら、家族で校区に暮らす。
加えて、周囲に子どもを預けられる親戚のいない世帯に配慮し、校内に、地域のボランティアで営む「放課後学童クラブ」も設けた。
一年に一度、10月頃に応募を受け付ける。その後、面談をし、最終決定が通知されるのは12月上旬である。2025年4月からの新年度では6組入り、1組が帰る。一湊小学校の児童数は42名。そのうち留学生は11名。子どもたちは問題を抱えていた。こちらに来ると、子どもたちは子どもの心を取り戻せる。
・背景
兵頭氏はそもそも留学制度に興味をもっていた。そういう勉強会にも入っていた。上屋久町の議員になって、教務委員会に入り、委員長にもなった。教育というのは都市の問題と田舎の問題とがある。しかし、同じプラットフォームに立つべきだ、と考えた。屋久島は人を育てる、という点ではこれ以上のところない。屋久島は小さい地球であり、環境を学ぶにはうってつけである。ここで子供たちを育てる、ここの体験をさせる、というのはとても大切なことなのではないか。そのような思いで黒潮留学を始めた。屋久島の小学校で山村留学制度を導入しているのは4校。これは都会の子供たちを島に滞在させるという制度で、本物の自然に触れさせたいという思いから始めた。2年間、屋久町の方から留学した家庭には補助を出す。助成は第一子が4万円、第二子は2万円である。一湊は基本、家族留学である。
・課題
課題としてはPTAの反対がある。PTAは知らない人が増えることは不安になっている。もう一つの課題は家。空き家対策としても留学制度は有効と考えるかもしれないが、実際は家族留学する人達の住む家がない。そこで、一戸一戸と直談判して交渉していった。ある程度の数が増えるまでは地道な作業を進めていった。これまでも、家でキャンセルというケースもある。空き家を住めるようにリノベする際、50%は町が負担するが、それでも半額負担をする家主は少ない。これくらいだったら住める、というのは田舎の感覚。このギャップを埋めることが必要である。実際、家族留学した人が取り上げた課題としては水回り。そのような状況で、本来であれば住民だけが申し込める町営住宅だが留学家族はよいなどの対応をしている。町営住宅は綺麗だ。
あと一湊は条件がよくない。これは南にある八幡地区とは異なる。八幡地区は人気があるので、留学家族も住宅を選り好みしない。一湊で縁がなければ、すぐ南の集落に行ってしまう。
このような不利な条件を覆すのに始めたのが学童保育である。そこに住む高齢者のボランティアで始めた。年寄りは子どもが少なくなってきたので子どもと出会うきっかけがない。学童始めたら年寄りは喜んだ。年寄りといっても70歳後半ぐらいまでである。ボランティアは一湊集落を含めて3集落から来ている。長く空き家であった場所を町のお金で改装して施設はつくられた。
・ポイント
100%賛成という政策はまずない、と兵頭氏は言う。今後、家族留学制度が無くなったとしても仕方ない。その時の保護者が尊重されるべきであると考える。ただ、発達障害の子を受け入れるかどうか、で議論した時、反対意見が出たが、それは不条理な理由だったので、そこは引くことができなかった。保護者はすがるような気持ちで来ているのが面接で分かったからだ。社会そのものが病んでいる。そのような中、屋久島は非常に恵まれている。なぜなら金がなくたって、経済社会の構造をあまり考えなくても芋食って、魚食っていれば大丈夫であるからだ。人間が生きるうえでの基本的な条件を屋久島は満たしている。それをしっかりと体験、体感できるのが屋久島。
備考
・補記
今回の取材調査では匿名を条件に3家族にも取材させてもらっている。もちろん、取材に協力してくれる家族ということで、この制度に肯定的な意見を有しているというバイアスはあるが、それでも、取材対応した家族は黒潮留学に満足していることが理解できた。どこを評価しているか。まず「子どもが子どもらしくいられる」「コミュニティで子どもを育ててくれるので、とても安心」というのが異口同音で述べていた。3家族の背景は異なる。ある家族は子供たちを受験プレッシャーにさらさせたくない。もう一つの家族は発達障害の子どもでゆっくりと育てたい。もう一つは子どもというよりかは母親がそのような生活をしたい、ということが理由であった。出身は東京都港区、熊本県、千葉県成田市、とそれも多様である。
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