調査報告:【合同会社ミナトスタジオ プロデューサー 安成洋氏】映画を通じて「誰も独りぼっちにさせへん」社会をつくる 〜ユニバーサル・シネマと”decent work”の追求〜
調査実施日時
2025年9月9日(火)13:00-18:00
調査先情報
名称:合同会社ミナトスタジオ
住所:〒650-0035 兵庫県神戸市中央区浪花町56
ホームページ:https://www.minato-studio.com/
調査参加者
合同会社ミナトスタジオ プロデューサー 安成洋
概要
2025年9月9日(火)、京都文教大学「ソーシャルイノベーション人材養成プログラム(SI事業)」の一環として、合同会社ミナトスタジオを訪問し、プロデューサーの安成洋氏に取材を行いました。
安氏は、映画を単なる娯楽ではなく「社会変革のツール」として位置づけ、映画を通じた「decent work」の創出と「ユニバーサル・シネマ」の普及を目指しています。本取材では、映画が持つ社会的価値を改めて問い直し、ソーシャルイノベーションの新たな形を学ぶ機会となりました。

2025年9月9日(火)、京都文教大学「ソーシャルイノベーション人材養成プログラム(SI事業)」の一環として、合同会社ミナトスタジオを訪問し、プロデューサーの安成洋氏に取材を行いました。
安氏は、映画を単なる娯楽ではなく「社会変革のツール」として位置づけ、映画を通じた「decent work」の創出と「ユニバーサル・シネマ」の普及を目指しています。本取材では、映画が持つ社会的価値を改めて問い直し、ソーシャルイノベーションの新たな形を学ぶ機会となりました。
| 合同会社ミナトスタジオ 設立:2023年9月 事業内容: ・映画、ドラマ、CMなどの映像作品の制作、企画、編集、配信、管理、販売 ・講演会、セミナー、イベント ・番組出演 ・映画配給 ・翻訳、通訳業務 本社:〒650-0035 兵庫県神戸市中央区浪花町56 H P:https://www.minato-studio.com/ |
「decent work」と「社会の品格」
安氏の根幹にあるのは、国際労働機関(ILO)が定義する「decent work」。すなわち「生産的で自由・公平・安全・尊厳が守られた仕事」です。
安氏は、在日コリアンとしての被差別体験から「働く」ことの意味を問い続けてきました。その思想を深める契機となったのが、兄で精神科医の安克昌氏が残した著書『心の傷を癒すということ』です。そこでは「心のケアは社会の品格に関わる」と記され、大江健三郎氏のノーベル賞講演における「decent」という言葉が重なります。
こうした思想的背景から、安氏は「decent work」を社会に広げる実践の場として映画事業に取り組んでいます。

映画が社会を変える――「誰も独りぼっちにさせへん」という思想
映画『心の傷を癒すということ』や『港に灯がともる』を自主上映する中で、安氏は「誰も独りぼっちにさせへん」というメッセージを届けてきました。
映画は、「没入できる環境」「他者との共感や交流」「儀式性・特別感」「地域社会との接点」といった多重の価値を持ち、人々の「生きづらさ」に寄り添う力があります。これは、映画そのものだけでなく「届け方」や「上映のあり方」がソーシャルイノベーションになり得ることを示しています。
「ユニバーサル・シネマ」という社会基盤
安氏が提唱する「ユニバーサル・シネマ」は、障害や年齢、文化的背景を理由に排除されることなく、誰もが映画を楽しめる仕組みです。
聴覚障害者向け字幕や音声ガイド、車椅子対応席、発達障害や高齢者向けの音響・照明調整など、単なるバリアフリーを超えた包括的な仕組みを整備。さらに、字幕制作や上映運営に障害当事者が参加し、雇用や委託を通じて「decent work」を得られる点が特徴です。
安氏は「当事者視点そのものが専門知となる」と語り、彼らが担う仕事の社会的意義を強調しました。

ミナトスタジオの事業構想
安氏が描く事業構想は、単なる映画上映にとどまりません。
- ユニバーサル上映会の開催(神戸・東京で年6回、全国共催で年12回)
- バリアフリー映画制作(年間100本以上を字幕・音声ガイド対応へ)
- ユニバーサル・シネマフェス(年1回神戸で開催)
- 教育・研修での活用(ソーシャルワーカー向け教材、EAPへの導入)
これらを通じて、「上映機会の創出」「仕事の創出」「新しい顧客層の開拓」という三本柱を確立しようとしています。

参加者の声と学び
今回の取材後のディスカッションでは、参加者から多くの具体的な感想や学びが共有されました。
- 映画と社会変革
「映画は娯楽にとどまらず、人々の心を動かし、社会を変えるきっかけになると感じました。特に『誰も独りぼっちにさせへん』というメッセージは、社会イノベーションの本質そのものだと思います。」 - コミュニティ形成
「映画を見た後に感想を語り合う場があることで、多様な解釈が生まれ、地域のコミュニティ形成に繋がるのではないでしょうか。」 - 教育・研修での活用
「臨床心理学や福祉の学びにおいて、映画は強力な教材になると実感しました。現場での研修や大学教育に積極的に取り入れるべきだと感じます。」 - 若者支援との連携
「字幕制作やイベント運営など、多様な仕事の機会がユニバーサル・シネマにあると知り、困難を抱える若者にも”役割”や”報酬”を得るチャンスが広がると感じました。」 - 広報・デザインの重要性
「一般の観客に映画の魅力をどう伝えるか。その入口となるポスターやビジュアルデザインにもっと力を入れることで、より多くの人に届く可能性があると思いました。」

おわりに
ミナトスタジオの取り組みは、映画を通じて「社会的包摂」と「仕事の創出」を同時に実現する稀有なソーシャルイノベーションの事例です。
ソーシャルイノベーション人材養成プログラムでは、社会課題に挑む企業や団体を訪問し、その現場から学ぶことを大切にしています。今回の取材を通じて、映画が「人々の心を動かす力」だけでなく「制度や雇用を変える力」を持ち得ることを実感しました。
ユニバーサル・シネマは、障害や困難を抱える人々に「decent work」を提供し、同時に地域社会に新たな文化的価値を生み出す取り組みです。これは、まさにSI事業が目指す「多様な知の融合」と「社会的インパクトの創出」を体現しているといえるでしょう。
地域企業連携コーディネーターとして、こうした取り組みを大学・地域・企業の橋渡し役として広げていくことが、持続可能な社会の実現に欠かせないと改めて感じました。
京都文教大学 地域企業連携コーディネーター
竹内良地
| インタビュアー | 竹内良地 京都文教大学 地域企業連携コーディネーター / Actors合同会社COO2017年に京都文教大学臨床心理学部を卒業後、新卒でネスレ日本株式会社に入社。セールスや企画業務を担当。2022年には人材育成‧組織開発プロジェクトをオーナーとして成功に導き、社内コンテスト「イノベーションアワード」を受賞。その後、スタートアップ企業を経て、Actors合同会社の立ち上げに参画しCOO(最高執行責任者)に就任。心理学の知見を活用した企業におけるビジネス課題の解決やオープンイノベーション創出を行う「ラポトーク」事業を立ち上げ、責任者を務める。加えて、京都文教大学にて文部科学省採択事業「大学連携型ソーシャル‧イノベーション人材養成プログラム」における地域企業連携コーディネーターを務め、大学‧企業‧地域団体間の連携に尽力。 |
「大学連携型ソーシャルイノベーション人材養成プログラム」のご紹介
龍谷大学大学院政策学研究科、琉球大学大学院地域共創研究科、そして京都文教大学大学院の3大学院が連携し、次世代のソーシャルイノベーション人材を育成するためのプログラムです。このプログラムでは、社会課題を多面的な視点から分析する力や、異なる領域の知見を統合し新たな価値を創出する力を養います。持続可能な社会の発展に貢献できる人材を育成することを目指し、臨床心理学の知見を活かしながら、社会課題解決に向けたイノベーションのプロセスやデザインを描けるイノベーション人材、そしてそのイノベーション人材を支援する心理専門家を育てていきます。
公式ホームページ:https://www.kbu.ac.jp/kbu/siprg/index.html
お問い合わせ :https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfXy4M4_xmAHPJu0lFeUyrG-comYT_mSQrCZosOwUWS1By73Q/viewform
