調査報告:Cerdeira Village(ポルトガル)

調査実施日時

2025年2月22日

調査先情報

名称:Cerdeira Village |Creative Center & Accommodation

住所:Casal da Silveira, 3200-509 Lousã, ポルトガル

ホームページ:http://www.cerdeirahomeforcreativity.com/

調査参加者

大石尚子(龍谷大学)、井上良子(龍谷大学RA)

概要

海抜700メートルの小さな谷間にひっそりと佇むセルデイラ村は、20世紀半ばに農業が放棄された後、消滅の危機に瀕した片岩の家々からなる村でした。
2000年に2組の家族が村の建物の復興に着手、2006年にはプロジェクトの共同設立者の1人が芸術祭の形で活性化に貢献。2018年に「Cerdeira - Home for Creativity」として多様な関係者を巻き込んだプロジェクトとなりました。

今では、olisipo wayというポルトガルのテック系ベンチャー企業が運営母体となり、スタートアップ向けのコワーケーション施設などを中山間地に作り、Tech Re_geneneration Villageとして運営する地域活性化プロジェクトのネットワークに発展しています。

セルデイラ村は地域資源であるXisto(シスト)と呼ばれる地域特有の片岩をシンボルとして、自然環境や地域の文化、工芸に触れながらその土地を訪れる玄関口になっています。

荒廃した村にアーティストが移り住んだことをきっかけに、一度外に出ていた地域の若者たちもUターンで村に戻ってきて、アコモデーション(宿泊)とアートスクールの2つの事業を軸に村を運営しています。

宿泊事業

10の宿泊棟のうち元の建物の90%が10年前に再建築されたという村は、絵本から抜け出したような風情と森や小川などの自然に囲まれていました。5年前からポルトガル政府も村の再開発に資金を投入するようになり、村の水道や電気(風力)などのインフラは地方政府が整備したとのことでした。

宿泊施設の室内は、部屋ごとにテーマがあり、ポルトガル特産のコルクなどの素材もインテリアに使われた(コルク産業の現状も担い手不足や山火事などの課題があるとのこと)素敵な雰囲気でした。また、宿泊者向けの食事は、村の畑や地域の農家から仕入れた食材(野菜や卵、フルーツなど)を利用しており、一度は荒廃した地元の農業の復活にもつながっていました。

アートスクール事業

プログラムには、焼き物、木工、籠編みなどのコースが用意されており、焼き物を焼くときに煙が出ないような窯と技術を日本の益子焼から学んだと伺い、思いがけない日本とのつながりに驚きました。焼き物のコースは、今ではヨーロッパでトップ5に入るレベルだそうです。

初心者向けは1〜3日のワークショップ、中級者向けは5〜10日のコースのほかプロのアーティスト向けのコースも用意されています。訪問した日も、趣味で受講している方、大学のギャップイヤーを利用して受講している方、アーティストのカップルなど様々な方が参加していました。また、中には自らセルデイラ村の「クリエイティブ・ツーリズム」を企画・実施している参加者もいて、新しい学びと体験の機会として注目が集まっているとのこと。

近年は、デジタル社会の中で「手を動かして何かをつくること」の価値が見直されていることから、さらに多様な人々が訪れており、プログラムや運営体制の充実化(今度新たにスタッフも雇用予定)に取り組んでいく予定だと伺いました。

視察を終えて

かつては荒廃していたと信じられないほど整備され、地域特有の片岩から作られた宿泊棟には、レストランやアーティストの作品が購入できるショップも併設されるなど、初めて訪れた人も充実した時間が過ごせる場所でした。何より印象的だったのは、現場で働くスタッフ(13名)の生き生きした姿。海外に留学してそのまま外で働いていた若い世代が、この村ができたことで戻ってきて誇りをもって働いている様子に地域のあり方を考えさせられました。

旅行客や外部からの企業誘致、関係人口を増やすことだけに注力するのではなく、まずは地元出身の人たちが内側から豊かに暮らしてポテンシャルを発揮できる環境を整えること。そのことのもつ力に気付かされた視察でした。