調査報告:Root Impact(韓国)
調査実施日時
2024年8月23日
調査先情報
名称:Root Impact
住所:G205, 5, Ttukseom-ro 1na-gil, Seongdong-gu, Seoul
ホームページ:https://rootimpact.org/en/
調査参加者
大石尚子(龍谷大学)、石原凌河(龍谷大学)、スプリーティトゥス (琉球大学)、井上良子(龍谷大学RA)
概要
Root Impactは、2012年に設立された非営利団体で、社会起業家(チェンジメーカー)支援のためのエコシステム構築、研修やトレーニング、キャリア構築支援などを行っています。
【具体的な活動やプログラム】
・Impact-driven Organization向けの研修
・アーリーステージの社会起業家向けのスキルアップ講座(AIの活用法など)
・NPOを対象としたPeer-Learning コミュニティの運営
・ソーシャルセクターへの就職を希望する学生向けのキャリア構築プログラム など

所在する聖水洞(ソンスンドン)エリアは、もともと靴工場や小さな町工場が立ち並ぶ地域だったところ、近年開発が進み、ソウルのブルックリンと呼ばれるほど若者に注目のエリアとなっています。さらに、Root Impactができたことで社会的企業や関連の支援機関も増え、このエリアは「ソーシャルベンチャーバレー」と言われています。

Root Impactが入るビル『HEYGROUND』には、100団体以上の社会的企業が入居し、コワーキングスペースや共有エリア(キッチン併設)、イベントスペースなども充実していました。

コミュニティ構築とヒューマンリソースの開発
聖水洞エリアにいくつかの機関を集めてエリア開発を行なったのは、当時まだ人々の認識や認知度が低かったためだという。まずはインフラをつくることで機運を高めていったとのこと。当初重視していたのは、①コミュニティ構築(co-living, share office)と②ヒューマンリソースの開発(学生向け教育プログラムからスタート)
姉妹組織として、5年前に「Impact Alliance」を設立(CEOが共通)。多様なテーマをもつ145団体のネットワークにより、シンポジウムの開催やコンソーシアムの構築などを通じて「コレクティブ・インパクト」を目指しています。変化が大きく流動的な社会課題に対応するための人的資本の集まりとも言えます。
(現在の)韓国政府は、雇用や人口(少子高齢化)の問題ばかりに焦点を当てているところ、民間セクターは、孤独の問題(多世代)、若者の雇用問題、accessibility(高齢者や障害者)、地方都市の問題(都市への一極集中)、地方の活性化を喫緊の課題と捉えていると話していました。
行政が社会課題を取り扱う場合、バラバラの対策になりがちで戦略もなく非効率だが、民間セクターには多様なリソースがあり、すべての問題に一つの傘下で取り組めることが重要だと指摘していました。

若者向けのプログラム、大学との連携
とくに若者(under employment)の問題には力を入れており、実践的なプログラムを大学と連携して運営しているとのこと。ヒアリングした際のポイントは以下の通り。
・高学歴→大企業に就職というキャリア選択の価値観から、より多様な選択肢を示したいという思いで、大企業も巻き込みながら実施している。社会的企業での働き方のイメージやストーリーを伝えることも大事。
・大学生は忙しい(アルバイトやボランティア活動に加え、通常の授業以外のプログラムにも参加している)ため単位が取得できる形でのプログラムに変更した経緯がある。
・試験の点数ではなく、リアルな社会課題に対して自分自身で考える力を重視しているため、①ロジカルシンキング(社会課題の発見、解決策の発案)②デザインシンキング (質問力、議論、クリエイティブアイディア)③社会的企業との接点(企業の課題を一緒に考える機会、パイロットプロジェクト)が大事だと考えている。③については、コーチやメンターという形で社会起業家に関わってもらったり、実際のプロジェクト現場の中で実験したり、また、学生同士のネットワークも大事にしている。

終わりに
インパクトエコシステムの構築には、あらゆるステークホルダーが関わること、多様性を大事にするためにもそれぞれの機関のアイデンティティ、ユニークネスが重要だということと、人々の先入観をなくすためにも、common and popular wordでソーシャルセクターに関する情報発信をしていくこと。とくに大きな課題に取り組むときは、コレクティブインパクトに向けて「Research-based Approach」が重要だと考えていると話されていた点が印象に残りました。