調査報告:Zentrum Für Soziale Innovation

調査実施日時

2025.08.18

調査先情報

名称:Zentrum Für Soziale Innovation

住所:Linke Wienzeile 246 1150 Wien Austria

ホームページ:https://www.zsi.at

調査参加者

服部圭郎(龍谷大学)

概要

ソーシャル・イノベーション・センターは1988年に設立され、1990年から営業を始めた科学研究所である。2014年7月1日に、それはノンプロフィット組織となり、社会開発を促進さえることを目的としている。その経営ミッションとして、下記のものを上げている。
・成果主義である。
・しっかりとした方法論に基づいて、また他に先んじた先進的な研究をすることを自ら課している。
・柔軟性をもって問題に取り組むが、事実・データを最優先する。
・しっかりとした分析を尾籠なる。
・政治的、経済的、法的に独立した自治組織である。

本取材では、このソーシャル・イノベーションのプロジェクトであるクラウス・シュー博士に、オーストリアでのソーシャル・イノベーション教育の展開を尋ねた。特に、彼がマネージャーとしてカリキュラム策定に関わったドナウ大学での経験を話していただいた。

事業概要(起業の経緯)

■オーストリアでのソーシャル・イノベーションでの流れ
ソーシャル・イノベーションには二つある。社会起業家と社会政策。社会起業家の教育に関しては大学では修士プログラムまで提供されている。社会政策は学部レベルでのプログラムしかない。これは社会政策寄りであり、高齢者の介護などのケアテイカーといった人の教育を対象としている。NPOや役所で働くといったイメージである。学部は「社会政策学部」(Social Policy)の中につくられる。
 オーストリアでは社会起業家のプログラムは2010年に始まり、社会政策のプログラムは2012年から始まった。ヨーロッパのソーシャル・イノベーションはアメリカやイギリスの影響が大きいが、オーストリアでは中欧独自の考え方も包含している。それは、環境問題にどのように対応するかということを検討している過程で問題提起された。この、新しい問題に対応するためには新しい社会的実践が必要である、という問題提起である。そして、ドイツとオーストリアでは新しく社会実装するための理論が提案された。
 そして、その理論にもとづいて、被害にあいやすい人達を10年ほど支援してきた。

■オーストリアでのソーシャル・イノベーションの必要性
 オーストリアは福祉国家であり、この面では先進的ではあるが伝統的。よく制度は構築はされているが、それゆれに新しい問題に対しての対処が弱い。特にコロナ禍以降、若者を中心に精神を病む若者が増えて言っている。また、それまでと違って、この10年間で移民が急増している。移民の増加を抑えることはできない。そこで、移民をどのようにオーストリアの社会に溶け込んでもらうか。移民のおかげで人口は減少していない。ただ、既存の制度だと移民を生産者にするにはコストがかかる。これも創造的なアプローチが求められている。また、高齢化が急速に進展しているために、医療福祉の問題が起きている。高齢者の健康を維持させるための新たな解決法が求められている。
このような新しい社会問題に対して、制度が対応できていない。このような分野では、ソーシャル・イノベーション的発想が求められている。

扱う社会課題とその背景

■ソーシャル・イノベーション・センターの役割
 ソーシャル・イノベーション・センターは大学ではない。民間の研究所である。しかし、公立ドナウ大学と協働して、オーストリアで最初のソーシャル・イノベーションのカリキュラムを考案した。それは、2年間で修了するというカリキュラムであったが、結果的には失敗した。10人から15人の教員を確保したが、応募してきた学生も10人から15人であった。学生の多くは留学生でメキシコやアジアが出身であった。残念なことにオーストリア人の学生はほとんど履修しなかった。三年経ったら学生はほとんど来なくなり、2017年に誰も学生が履修しなかったのでプログラムを閉鎖した。
 カリキュラムを策定するうえでは、ウィーン経営大学が社会起業家のプログラムを提供していたのでそれを参考にした。社会政策に軸足を置いたカリキュラムはリンツ応用科学大学では提供していた。
 ダニューブ大学での失敗は、ジョブ・プロファイリングをしっかり説明できなかったことだ。カリキュラムもソーシャル・イノベーションの理論面に特化し過ぎた。学術的な方法論に力を入れすぎた。しっかりと、このカリキュラムで勉強すると、どのような仕事、業種に将来、つけられるのかといったジョブ・プロファイリングを明確化することが必要である。

解決方法や解決アプローチ

■ソーシャル・イノベーションを実践する人材を育成するカリキュラム。
 これはドナウ大学のカリキュラムをつくるうえで非常に悩ましい点であった。試行錯誤でするしかなかった。ケース・スタディで成功事例を教えるというようなことをしたが、それがどれほど学生のためになったかは振り返ると疑問である。ビジネス的に成功したプロジェクトを通常の分析手法で教えても、それがどれぐらい意味があるのか。といのも、ケース・スタディは極めてユニークな場合がほとんどであり、それを一般化させるというのは難しい。
 また、イノベーションといっても、それをどのように定量的に評価するのか。また、イノベーションをさせた後、それをどうやって定常的なサービスとして定着させるのか。ソーシャル・イノベーションの定義が最初にあるのではなく、ソーシャル・イノベーションの実践事例がソーシャル・イノベーションを定義するといった側面もある。新しい社会問題が生じた時に、新しいソーシャル・イノベーションが行われる。そのように考えると、この新しい社会問題が何か、ということを教えるといった内容が重要なのではないか。そして、それは新しい技術、問題を解決するポテンシャルを有する技術について知ることの重要性にも繋がる。

その他

■今後の課題
 ソーシャル・イノベーションはより客観的にしっかりと評価しないといけない。情報が不足している。評価が必要である。政府がどれくらい関与すべきかも検討事項である。政府の役割は補助金を出すことであって、政府がソーシャル・イノベーションを実践しようとすると問題が生じるであろう。オーストリアは伝統的にNGOが大きい。NGOが大きいと市場経済の独占をある程度、押さえることができる。とはいえ、ソーシャル・イノベーションにはビジネス的な視点は必要。うまくコンビネーションをつくっていくことが必要である。
 オーストリアは福祉国家であるが、福祉国家はお金がかかる。市場経済が失敗しているところでは、ソーシャル・イノベーションが期待される。
 オーストリアでは兵役につくか、代わりに8ヶ月、NGOで働くという選択をさせられる。老人ホームとかのシビル・サービスで働くのである。したがって、NGOは従業員はある程度、計算に入れることができる。

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